野菊のごとき君なりき

(C)KADOKAWA 1966
老人は、六十年前に過ぎ去った、ほのかに若く、そして甘い青春の想い出にひたっていた。--ゆったりとした川の流れる平和な里で、いとこ同士の政夫と民子は、まるで姉弟のようにして育った。民子が十七歳、そして政夫が十五歳の秋。民子は、村一番の旧家の女主人である、病身の政夫の母の看病に、数里離れた川下の町からやって来ていた。二人は幼いころと同じように、ふざけ合い、楽しく語り合った。ところが、こんな二人の仲を、村の人たちが、噂しはじめ、同じ家にいる作女のお増や、底意地の悪い嫂のさだまでもが、ことあるごとに、二人に悪恵に満ちた嫌味をあびせるようになった。

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