紙屋悦子の青春
(C)2006「紙屋悦子の青春」パートナーズ
昭和二十年・春。両親を失ったばかりの娘・紙屋悦子。彼女は、鹿児島の田舎町で、兄の安忠とその妻・ふさと慎ましい毎日を送っていた。そんな彼女の願いは、家族の平穏と、密かに想いを寄せる明石少尉の無事だけである。ある日、兄は明石の親友・永与少尉との見合いを悦子に勧めてきた。それは明石自身も縁談成立を望んでいるという。見合い当日、永与は悦子に真摯な愛情を示した。自分の事を何も言えずに、明石との友情について語り続ける永与の不器用さは、悦子には好ましく思えた。そして求婚に答える悦子。ところが、しばらくして、悦子は衝撃的な事実を知らされた。明石が特攻隊に志願し、間も無く出撃すると言うのだ。死を目前にし、明石は最愛の人を親友に託そうとしたのだろう。「永与は、ほんなこつ良い奴ですけん」
出撃前夜、悦子にその言葉を残し、満開の桜の下を去っていく明石。その夜、たった一人で泣き尽くした悦子。数日後、悲痛な面持ちで明石の死を告げに来た永与。明石が書き残したという手紙を永与から受け取り、封を開けずに握り締める悦子。そして、勤務地が変わる事になったという永与が去ろうとした時、彼女は今度こそ胸の中に秘めた想いを口に出した。「きっと迎えに来て下さい」二人の結婚を決意した最初の一歩がはじまるのだった。